デジタル終活の要はスマホのパスコードにあり

「デジタル終活」や「デジタル遺品」といったテーマは当業界でも無視できないところがある。しかし、パソコンにキーポイントがない場合が多いことも知っておいたほうがいい。

デジタル遺品相談の8割超がスマホのロック絡み

デジタル遺品とは、故人のパソコンやスマホの中身、オンライン上のアカウントなど、デジタル環境を通してしか実態が把握できない遺品のことを指す。そうしたデジタル遺品を遺族が処理したり、生前に本人が整理したりするのがデジタル終活だ。

本質は従来からある普通の遺品――紙焼き写真や日記帳、不動産、預金通帳、有価証券など――と何ら変わらないが、遺族の立場でみると非常に気づきにくいという難点がある。紙の書類や物品などの物質的な証拠がない場合が多く、持ち主が愛用していた端末を通すなどしないと知りようがないものも珍しくない。そして、その端末にロックがかかっていると相当にやっかいな状況となってしまう。

それでもパソコンならいくつも手立てがあるのはご存知の通り。セーフモードを利用したり、物理的にHDDやSSDを抜き出して調べることもできる。しかし実際のところ、スマホが中心になるほうが圧倒的に多いようだ。

筆者が所属している一般社団法人デジタル遺品研究会ルクシーではデジタル遺品に関するトラブルの無料メール相談を行っているが、遺族から届く相談の8割超は「故人のスマホのロックが解除できない」というものになる。パソコンのロック関連は1割にも満たず、その他の「SNSのアカウントを抹消したい」「ネット口座の凍結を解除したい」といった相談はそれ以下しかない(スマホを開いた暁にLINEをダウンロードしたりネット銀行の口座を調べたりしたいという要望は少なからずあるが、スマホのロック解除が前提となっているので、個別案件には含めない)。

つまるところ、デジタル遺品は「故人のメインスマホが開けるかどうか」が問題解決の分かれ目になる場合が多数を占めるといえる。そして、それが最大の難関になっている。

サポート体制は予告なく変更される

スマホのパスコード(パスワード)が分からない場合はどうすればいいのか。

誕生日や「123456」など安易な文字列を手当たり次第に入力するのは避けた方がいい。端末によっては10回以上連続でミスすると初期化される設定になっているものもあるし、5回以上連続ミスした段階でロック画面に「●分後にお試しください」と表示し、バックグラウンドでロックのレベルを高める仕様になっているものもある。チャレンジするのはせいぜい3回までに留めておき、決定的なメモや証言が見つかったとき以外は触れないようにしたい。

パスコードの突破が最大の難関

次善策は、Apple IDやGoogleアカウントで紐付けされたバックアップデータを引き出して、本機や同型番の複製機で復旧を試みる手法となる。

iPhoneの場合はクラウドツール「iCloud」内や、連係しているパソコンにインストールした同期ソフト「iTunes」内でバックアップデータを探すのが賢明だ。Apple IDに設定している故人のメールアドレスさえ分かれば、パスワードを再発行する手もあるので、何とかなる可能性が高い。ただし、端末内を丸ごとバックアップする「iTunes 暗号化バックアップ」は、2017年9月のバージョンアップ以降アプリごとの設定情報は反映されなくなっている。バックアップ経由で、丸ごとそのまま元通りというわけにはいかなくなった。

Androidの場合、2015年以前は他の端末からGoogleアカウントにログインすれば遠隔操作でパスコードを解除できたが、現在はそうした決定的な解決策は用意されていない。アカウントに紐付けされたアプリの情報はほぼ自動でクラウド上に二重化されているので、他の端末からそれらを吸い出すことは可能だ。他のアプリのバックアップが見つかる期待値は低い。たとえばLINEのデータはLINE側で対応する必要があるが、利用規約上本人以外がバックアップするのは難しいのが現状だ。microSDカードを抜き出してデータを取り出すなど、複数の手段を併行して試すのが現実的な方法といえる。

2つのOSに共通していえるのは、メーカーが用意しているサポート機能は予告なく変更されるということだ。昨日までは堅い策だったのが、今日になったら一切使えなくなるということが往々にしてある。

スマホにおける次善策は常に不確かだ。しかし、スマホにデジタル遺品が集中する傾向は年々高まっている。それだけパスコードの重要性が増しているというわけだ。パスコードが遺族に伝わるか否かで、遺族の手間や精神状況には雲泥の差が出る可能性がある。だからルクシーでは、生前からせめてメイン端末のパスコードだけはメモしておいて、預金通帳や実印などと一緒に保管しておこうと声を上げている。今後も家やクルマのスペアキーみたいに扱う意識を浸透させていきたい。

ちなみに、指紋認証や顔認証、虹彩認証などの生体認証ロックが使える端末でも、必ずパスコード(パスワード)も併用する仕組みになっているので、持ち主の死後に完全に手が出せなくなるといった心配はない。

古田雄介
フリー記者/一般社団法人デジタル遺品研究会ルクシー理事
デジタル遺品の現状を追う記者。著書に『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)、『故人サイト』(社会評論社)などがある。2016年8月にデジタル遺品研究会ルクシーを共同設立して理事に就任。

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