ガレージスミダ | 好きなことをビジネスに。パソコン整備士は、ものづくり現場に求められるのか?

パソコン整備士のなかには「好きなことをにしたい」と、ものづくりの世界へ興味を抱く方も多いことだろう。では、実際にものづくりの現場で働いている人たちは、「自分が好きなこと」をビジネスにしているのだろうか。
でユニークな取り組みをしている、(以下、)の経営企画部部長・氏に、製造業の現状とあわせて話を伺った。

 

「好きなこと」=「人間がやるべきこと」であることが大切

「仕事だからやるとか、お金や生活のためだけに仕事をするのでなく、自分がやりたいことを追求しつづけることが、これからのものづくりの世界では大切だと思います。やりたくない仕事は、いずれ機械などに置き換えられるのが製造業の歴史ですから」と小林氏は話す。

浜野製作所は、金型成型や板金加工を中心に、企画開発から設計、各種加工、組み込み・組み立てまで手掛けるだ。こちらが掲げるビジョンのひとつに、「好きなこと、人に役立つことをする」というフレーズがある。

製造業だけに限らないが、人間がやりたくない仕事は機械に置き換えられていく傾向がある。だとすれば、やりたい仕事をするのが人間らしい働き方ではないだろうか。小林氏は続けて、こう述べる。

小林亮氏(浜野製作所経営企画部部長)

「単にモノをつくるだけなら、知識や経験があれば誰でもカタチにできます。でも、ビジネスとしてものづくりをやっていくなら、人間がやるべき部分を見極めることが重要です。例えば、戦略的なビジネスモデルの設計やマーケティングリサーチなども、人間がやるべき部分でしょう。それに、『やってやろうじゃないか』という強い覚悟、すなわち情熱も、ものづくりには大切だと思います」

 

 

町工場には、「これをつくって社会の役に立てたい」という強い信念を持った顧客が毎日やって来る。そんな顧客の思いに共感し、実現するまで粘り強く対応する。それが情熱だ。情熱があってこそ、本当に「いいモノ」「必要とされるモノ」が生まれてくると、まるで「下町ロケット」を彷彿とさせるような気持ちを、小林氏は熱く語ってくれた。

浜野製作所は、精密板金やレーザー加工、アッセンブリなど、さまざまな加工に対応できる。

 

ものづくり現場に求められる“

浜野製作所では、ユニークな取り組みを行っている。ものづくりの総合支援施設「」だ。アイデアはあるけど生産拠点がないというや起業家に、技術支援を含めたさまざまなサポートを提供している。

こうした取り組みは全国各地に存在するが、いずれも自治体や大企業などの支援が目立つ。浜野製作所は従業員数50人ほどの町工場だ。それなのに、なぜ支援を行うのか。背景には、町工場の”アップデート”が急務と感じていたからだと小林氏は語る。

「私たちのような町工場は、従来、顧客からの依頼を図面通りにつくるのが仕事でした。しかし、省化が進んだ現在ではロボットやAIのほうが正確性に優れている。このままでは、技術を持った職人が淘汰されてしまうのではないかという懸念がありました」

そこで浜野製作所では、クローズになりがちな町工場をもっとオープンにしようと、学生インターンシップの受け入れや、子どもたちから社会人までを対象にした工場見学など、「開かれた町工場」をアピールしてきた。こうすれば人や情報が集まり、アイデアや技術も集まってくる。町工場のアップデートができるわけだ。すぐにビジネスにつながる話もあれば、数年後にビジネスへとつながるケースもあるという。こうした取り組みの集大成が、「ガレージスミダ」であった。

浜野製作所がある東京都墨田区では、毎年秋頃に町工場見学ツアーのイベント「スミファ」を実施している。実行委員会の委員長は、浜野製作所の浜野慶一社長が就任。彼の呼びかけで、見学ツアーに参画する企業も増えており、町工場のアップデートは確実に進んでいる。

電気自動車「HOKUSAI」の向かって左に立つのが、浜野慶一社長(提供:浜野製作所)

http://hamano-products.co.jp/hamanoproject/hokusai/page/2/

ガレージスミダの取材記事はこちらに掲載されています。

 

パソコン整備士がものづくり現場でできること

ガレージスミダには、IoTやロボット関連などのベンチャー企業や起業家などが集まる。また、大学教授や自治体、大企業の開発部門など、異業種が集まるイベントも開催している。
そこに、パソコン整備士の資格を持っている人でも入れるのだろうか。小林氏は、“より深い知識を持った方”であれば参加することでビジネスチャンスは広がるのではないか、と持論を示す。

「ものづくりの世界では、表面的な知識しかない人は通用しません。知識が深くてマニアックな人ほど向いていると思います。そういった点では、パソコンに深い知識のある整備士の方にも、ぜひ参加いただければと思います」

何かの分野を究めているプロフェッショナルが、何かを求めてやってくる。それが、ガレージスミダに集まる人たちの共通点だ。年齢や男女も関係ない。いい意味で「一癖ある」人たちは、その人にしか分からない“感性”を持っている。その感性が重なるもの同士が交流を深めることで、新しいビジネスが生まれていくと小林氏は語る。

「これまで多くの方とお会いしてきましたが、マニアックな人ほど物事を別の角度から俯瞰できる力に長けていると感じます。ちょっと角度を変えれば、こんなビジネスがあったと気付くこともある。その“気付き”が発見できる場を、私たちは提供したいのです」

スタートアップから大企業、大学や研究機関、行政などから各分野の専門家たちが集う「GSコミュニティ」の様子(提供:浜野製作所)

http://www.garage-sumida.jp/gs-partner/

 

IT人材が不足する町工場

一方で、中小のものづくり企業にはITに詳しい人材が少ないという課題もある。浜野製作所も同様で、パソコンに関することは小林氏が対応しているという。

「パソコンに関して何の資格も持たない私が、セッティングや、ちょっとした故障への対応をしています。中小企業ならどこでもそうだと思いますが、現場の人間でなんとかするしかないんです」

いまや町工場でも、生産管理システムや在庫管理などにパソコンはフル活用されている時代。とはいえ、IT分野における町工場の”アップデート”は遅れているのが実情だ。

確かに、パソコンに詳しくなくても「使えればよい」と導入している経営者もいる。しかし、いざパソコンが使えないとなれば、ビジネスにも大きな影響が出る時代になりつつあると、小林氏は気を揉む。

「こんなサービスがあるとか、パソコンが壊れたらいつでも連絡くださいとか、ちょっとしたアドバイスをいただけるような人がいれば助かりますね。パソコン修理業者を求めている町工場は、意外と全国各地にあると思います。お金がないのがネックですが、ビジネスとしては宝の山。もし、ビジネスを探しているパソコン整備士の方がいらっしゃれば、ぜひ町工場の現場を見てほしいですね」

 

ビジネスの基本は、世の中の困っていることを解決するサービスを提供することだ。しかし、どこで、何に困っている人がいるのかを知るには、現場に行かないとわからない。
墨田区には、浜野製作所をはじめ開かれた町工場が増えつつある。ガレージスミダのイベントなどに参加することで、新しいビジネスにつながる可能性も期待できるだろう。
パソコン整備士にとって町工場は、埋もれていたビジネスチャンスを発掘できる場なのかもしれない。

■ 企業DATA ガレージスミダ http://www.garage-sumida.jp/

>> (前号)下町工場の挑戦―ものづくりインキュベータ「ガレージスミダ」を取材!

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