ガレージスミダ | 下町工場の挑戦―ものづくりインキュベータ「ガレージスミダ」を取材!

や起業家などを、「ものづくり」で支援するがある。(以下、)が運営する「ガレージスミダ」だ。
中小企業の町工場が、あえてベンチャー企業や起業家を支援する理由とは? 下町のものづくり現場を取材した。

ものづくり総合支援施設「ガレージスミダ」

「シリコンバレーのような開発拠点が、東京の墨田区にもあることを世界に向けて発信していきたい」
こう述べるのは、浜野製作所で経営企画部部長を務める氏だ。

浜野製作所は、昭和風情の街並みが懐かしさを感じさせる東京の下町に拠点を構え、金型成型や板金加工を得意とする製造業者である。ここには毎日、さまざまなアイデアを持ったベンチャー企業や起業家などが集い、そのアイデアを町工場の豊富な技術でカタチにするプロジェクトが続々と立ち上がっている。それが、浜野製作所の運営するものづくりの総合支援施設「ガレージスミダ」だ。

住宅がひしめき合う下町の一角に、本社板金工場・ガレージスミダ(浜野製作所)はある。右は隣接する第一工場。

小林氏はガレージスミダ総括担当として、プロジェクトマネージャをも務める。
「新しいのアイデアを持っている方は、世の中にたくさんいらっしゃいます。
一方で、それを実現する生産拠点がなくて困っている人も多い。ガレージスミダは、こうした悩みを持つ方に企画提案から技術支援、試作品の開発、さらには量産までトータルでサポートする施設です」

開発拠点の施設は、浜野製作所の工場の2階にある。1階には溶接機やレーザー加工機など各種設備が並んでおり、こんなものが作れないかと相談するのも、設計図をもとに製造するのも、スピーディーに対応できる。これが、ガレージスミダの最大の強みだ。

「他のものづくり支援施設やアクセラレーター等との違いは、依頼者の研究開発スペースと私たちの生産拠点が同じ建物内にあること。それに、品質はもちろん製造責任も当社が持ちます。開発や量産にかかる費用も、さまざまな取引コストを含めてトータルで考えれば安く抑えられると思います」と、小林氏は胸を張る。

ベンチャー企業や起業家が開発拠点として活用できるシェアオフィス。最長3年まで契約でき、いつでも利用できる。

 

社会的課題を解決する開発支援

ガレージスミダへの相談件数は年々増えており、2018年度は300件を超える予定だ。業種も、流通系から食品、農業、大学の研究機関、デザイナーやクリエイターなど、実にさまざま。数は少ないものの、系やネットワーク系の案件もあるという。

「高齢者の見守りや、年間5億円ほどに相当すると言われる家庭の飲み残し薬の課題を解決するため、薬箱を製作するという依頼もサポートさせていただきました。最近では、このようなIoT関連の事業主から相談されることもあります」(小林氏)。

なかには、大学生のアイデアから始まったプロジェクトもある。
幼少期の闘病体験から、病床で孤独を癒す遠隔操作型ロボットの研究開発をしていた大学生がいた。彼の思いに心を打たれた浜野製作所社長の浜野慶一氏は、このプロジェクトへの支援を決意する。こうして生まれたのが、コミュニケーションロボット「オリヒメ」だった。
この大学生は現在、株式会社オリィ研究所の代表となり、コミュニケーションロボットの普及に取り組んでいる。

テレワークでコミュニケーションができる「オリヒメ」は、病院や介護施設などでの導入が進んでいる。

このほかにも、台風で発電できる次世代風力発電機、電動車椅子の概念を超えたパーソナルモビリティ「WHILL」、太陽光パネルのお掃除ロボットなど、多種多様な開発を支援してきた。

いずれのプロジェクトにも共通しているのは、「社会に役立つ事業に対して支援」している点だ。「ものづくりを通じて世の中のお困りごと・社会課題を解決する」というのが、ガレージスミダのミッション。これをもとに、設計開発から技術指導、試作、量産、組み立てや組み込みまで幅広い支援に対応してくれる。

 

中小企業がベンチャー支援をする理由とは?

浜野製作所は、従業員数50人ほどの中小企業だ。大企業のように、マンに余裕があるとは決して言えない。それにもかかわらず、なぜこのような支援を行っているのだろうか。
それは、町工場ならではの悩みを払拭したいという決意があったようだ。

「町工場といえば、閉鎖的なイメージが強いと思います。そのイメージを払拭するために外の空気を取り入れ、社内を活性化させようという考えが社長にあったようです」(小林氏)。

実は、浜野製作所ではガレージスミダをオープンする10年以上前から、工場見学をはじめ町工場をオープンにする活動を続けている。それによって人が集まり、同時にアイデアや技術、情報なども集まってくる。浜野製作所にとっても大きなメリットだ。
今でこそベンチャー企業を中心に会社をオープンにする取り組みが活発だが、浜野製作所ではこれを2000年代初頭から実践してきたのだから、先見の明に驚かされる。

小林亮氏(ガレージスミダ・プロジェクトマネージャ)

さらに、事業支援のメリットには社員教育もあると小林氏は話す。

「完成形がわからないまま、ある製品の一部分しか作っていない町工場もたくさんあります。毎日、とにかく図面通りに製造するだけ。これでは社員のモチベーションも下がり、ひいては離職者が増えることにもつながります。そんな現場で、例えば、電気自動車を作ろうとなれば、みんな完成形をイメージできますよね。それに、顧客や社会からの評価も直接もらえますから、『もっといいものを作ろう』というモチベーションアップにもつながる。社員の意識改革ができるのも、大きなメリットです」

社員のモチベーションアップは、離職者を防ぐ要因にもなる。
さらに浜野製作所では、工場見学や学生インターンシップの受け入れなど、ものづくりの担い手を育てる事業にも積極的に取り組んでいる点も、特筆すべきポイントだろう。後継者不足に悩む製造業者にとって、ガレージスミダは救世主になるかもしれない。

浜野製作所に聞く「パソコン整備士の新規ビジネス開拓法」とは?

ガレージスミダ | 好きなことをビジネスに。パソコン整備士は、ものづくり現場に求められるのか?

 

ものづくりコミュニティから生まれる新ビジネス

工場見学以外にも、ガレージスミダではものづくりにちなんだイベントを定期的に開催している。それが、「GSコミュニティ」だ。
参加者は業種を問わず、スタートアップから大企業、大学や研究機関、行政などから各分野の専門家たちが集う。ものづくり一筋のプロフェッショナルが集まることもあれば、アイデアを生み出す人や、そのアイデアの実現に必要な資金を持っている人などが集まることもあるそうだ。

「いろんな人たちが集まって、新しいものが生まれていくような場として開放しています。もちろん、パソコン整備士会員の方もウェルカムです。これからも、ものづくりの情報発信基地として、墨田区から世界に発信していきたいですね」(小林氏)。

こうしたイベントができるのも、多くの人が集まる東京ならでは。なかには、地方から参加される方もいるという。会員登録をすれば誰でも参加できるので、興味のあるかたは検討してみてはいかがだろうか。

■ 企業DATA
ガレージスミダ
http://www.garage-sumida.jp/

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