【きむらの随想】ITは、自由と時間を与えてくれる“三種の神器”?

Adjuster Onlineの統括編集長・木村雅彦が日々考えていることをお伝えしていきます。システムという便利な道具が逆に縛りになっている逆立ち状態の現場も珍しくないようで・・・。

世話のかかる神器はホントに神器?

情報システムの仮想化とCloudの利用で同時に実現できるコスト削減とセキュリティの強化…この怪しげで魅力的な言葉が中小規模の経営者の頭を悩ませていることは皆さんご承知のことと思います。

昔は、情報システムの最新化とシステム更改と言えば、物理的な寿命に対する最適な答えを提案する事がメインテーマでした。そこで経営者は、せっかく新しくするのだからと、現在の労務コストを下げ、タイムリー(ほぼリアルタイム)に欲しい情報を得ることを求めたのです。PCパーツの進化がもたらしたコストダウンと商用OSは、一見すると情報システムの投資予算を劇的に下げることでIT化と言う”魔法の杖”をより身近にしました。

その結果、人材管理と経営管理をシステム任せにすることへの「良し悪しを考える」と言う機会と検討のプロセスが失われたきらいがあります。人材=人間の能力や可能性を考えることなく、ITへ人間が合わせる事は善であるという米国の潮流に飲み込まれたわけです。いわば「IT化への熱狂の時代」が来たと言えるでしょう。

従来、単純な集計や計算といった人が行っていた定型化された業務のみならず、業務支援というより広範囲な括りでは、人間より機械が優れているという前提が鵜呑みにされたのです。機械が作業を半自動で処理してくれて、煩わしい日々の雑事から従業員を開放してくれるイメージでしょうか。

ところが実際には、予期せぬ事態に対しては、逆に従業員がシステムを支援しなければなりません。また、機械は壊れるものですからステムは簡単にダウンします。そして、情報システムというブラックボックス特有の悪夢が担当者襲いかかります。まだ、少なからず情報システム全体を俯瞰し運用する知見と経験を持つ人がいた時代は、なんとかその荒波を乗り切ることができたわけです。ところがインターネット等のデータ通信の環境が整備されシステムがより複雑化することで情報システムに携わる人たちの担当領域の分業化が進んだ結果、何かの障害が起きると責任分界点という名目のもとにお互いの責任転嫁が横行することとなりました。

要するに経営者は、IT化により新たな経営リスクと事業運営リスクを抱える羽目になったわけです。

もちろん正常にシステムが稼働している場合は、多くの利点を利用者は享受することができましたので”スピード経営”なる流行語まで生まれました。情報システムに関する手練れ=設計者の払底と同時進行するように現場での業務利用側との乖離は進み、システムを使いこなせない人はいらないという風潮が生まれたのです。

「何かがおかしい」と本末転倒に気づく感性がカギ

どうでしょうか、省みればシステムに人が合わせる業務がいかに増えたかということに気づかされます。

そこに情報システムの有識者といわれるシステムコンサルタントが登場することで、事態はより混迷の度合いを深めます。現在のシステムコンサルタントの業務分野を考えると、正確には特定の業務アプリケーションに人の業務を当てはめる作業をする人といった方が、正鵠を得ているように思います。それに拍車をかけるように喧伝されたのがアウトソーシングという美名のもとに行われる完全または一部の業務を切り出した外注化です。

ここまでくるとASDJUSTERの皆さんがご存知の通り企業の財産ともいうべき「人材の空洞化」が、より加速することになります。中小企業では情報システム人材の払底も含めて、会社の業務運用の改善を司る人材の空洞化が招いたのは、最適な現場判断ができる中堅人材を育てることが難しくなったことにあります。

日々、顧客の要求に応え柔軟な対応を行うことが逆に難しくなってきたわけです。それは新規事業や事業の拡張を図る度にシステム化が行動計画のメインテーマになっていることから推察できます。次に、その空洞化を助長した情報システムそのものも外注化することにより空洞化がもたらしたのは自社のシステムですら何がどのように行われているのかさえ分からなくなりました。

情報システムの集約化と分散による不可視、特に規模のダウンサイジングは、仮想化によりもたらされ、さらに、遠隔操作によるCloudサービスを利用することで物理的なマシンまでも他人と共有することになった事をどれだけの経営者が理解できているでしょうか。

しかし、どんな仮想化であろうとも物理的な機械が、その実体であることは昔と変わりません。様々な事象を出現させるシステムの振る舞いを理解し、利用者に伝える上で、ADJUSTER資格取得で得た体系化された知見は非常に有用かつ必須なものといえるでしょう。

もちろん、仮想化やCloudの利用は否定的な面だけではありません。重要なのは、手元から離れることで想定外のリスクを持つということと、このような形態でのシステム利用がもたらす恩恵は、その固有のリスクとのトレードオフの関係であり、結果、求めるものが本当に身の丈にあった最適なものであるのか、最適な投資選択なのかどうかという重要な経営判断がすべてを決めるということです。この判断を誤ることがないようにADJUSTERは、システム化情報の交通整理と、そのシステムが期待する価値をもたらすのかを公平に評価することが必要になります。

実際に仮想化ツールとして多く利用されているリモート操作ソフトウェアはレガシーシステムと呼ばれる時代から利用されてきたものを最新化したものと言えます。さらにCloud環境のサービス利用料金は安くても、バックアップや可用性を維持するために旧来の自社のシステム開発と運用保守費用よりも高額になる可能性すらあります。

「人材の空洞化は、情報システム面のみならず業務面の人材確保や育成でも回避しなくていけません。」そのためには、利用者側の「人の感度」と「情報システムでの処理を行う元ネタ=生データ」を確実に保持することが必要かもしれません。

何が起きても情報システムが作り上げた結果と元ネタの関係性から「日々の取引において、これは何かおかしい」と感じ取れる想像力と感性が求められます。見えないシステムの暴走や不完全な動作に気づく人は非常に少ないのが現状です。人間の感度を維持向上させるには、手書きに代表されるような一種の脳トレーニングが必要かもしれません。

本来、人間に備わった能力拡張機能としての学習機能は、自身で手書きをすることにより象形的な形と意味を学習し覚えていく経験的な行為から生み出されると言われています。その意味では、人間の能力の向上はキーボードタイピングからだけでは難しそうです。

書籍や紙の印刷物が持つ特性として広く理解されている「一覧性」や「網羅性」、さらに内容を把握する上での「情報が持つ前後の関係性」を読み解く行為は人間の本来能力向上には欠かせないものと言えそうです。システム開発の視点から見れば、精緻な要求仕様には、IT化で代替する業務の意味や流れと期待する答えを熟知する必要があります。

このような場面で経営層や情報システム担当からADJUSTERの皆さんに求められるのは、このテーマはシステム化できる業務なのか、また、すべき業務なのか、機能実現に対する難易度や規模感と、その可能性を明確に伝えることとなるでしょう。ここでは、最新のIT知識や知見を総動員する機会があると思います。次回は、日々生み出される多種多様な最新のIT化動向をふるいにかけるコツを書いてみたいと思います。

 

木村雅彦
ITアドバイザリー/ADJUSTER ONLINE統括編集長
欧米で約15年間にわたり自動車産業、通信分野でのIT活用スキルを取得。帰国後、ITベンダーやシンクタンク、弁護士法人でのIT 新技術の実用化と事業化支援、IPデータ通信を利用したBIGデータ分析モデルの検証、社会人向けビジネススクール講師として戦略的ITマーケティングと市場統計分析へのIT活用を体系化。現在は航空機の飛行データ解析を支援している。

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