産業界が注目するRaspberry Piの魅力とは?

産業界ではいまIoT分野のさらなる進展を目指し、新しい製品やシステムの開発が相次いでいる。その開発をけん引するのが、小型で安価なコンピュータボード「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」だ。

2019年末までの累計出荷台数は3,000万台以上。IoT分野のエッジPCやエッジサーバ、ゲートウェイをはじめ、多機能家電や防犯カメラなど、試作品から民生品まで幅広く採用されている。

モノづくりの現場に大きな革命をもたらしたRaspberry Piとは、どのようなコンピュータなのか。詳細を探ってみたい。

Raspberry Piとは


Raspberry Piは、ARMプロセッサを搭載したコンパクトなシングルボードコンピュータだ。英国のラズベリーパイ財団が開発し、最初のモデルは2012年にリリース。発売初日だけで10万台も売れるヒット商品になった。その後、形状や機能などが異なる複数のシリーズが登場し、用途にあわせて選べるよう多様な製品展開を行っている。

コンパクトとはいえPCを構成するハードウェアの大半が詰め込まれており、HDMIやUSBなどのインターフェイスも利用できる。キーボードやマウス、ディスプレイなどの周辺機器と接続すれば、ビジネスでも活用できるコンピュータだ。

GPUはモバイル向けのBroadcom VideoCoreを搭載しており、グラフィックの分析や処理もできる。2016年に登場した「Raspberry Pi Camera Modules v2」には、800万画素のカメラモジュールが搭載され、モニタリングやセンサーデータの集約・蓄積する装置などへも活用の裾野を広げた。

Raspberry Pi3以降のModelAとModelBなど一部の製品には、Wi-fiやBluetoothといった通信機能も標準装備されており、スマートフォンなどのデバイスと連携できることも、IoT分野で注目を集めるようになった一因だろう。

標準OSは「Raspberry Pi OS(2020年5月にRaspbianから名称変更)」というRaspberry Piのために作られたものだが、一部のモデルでは「Ubuntu」やIoT分野向けに開発された「Windows 10 IoT Core」など高機能なOSの搭載も可能。しかも、記憶装置であるmicroSDを変えるだけでOSを変更できる。用途にあわせてOSを容易に変えられることにより、趣味の電子工作からPCへの搭載、さらには最先端のIoT分野の研究開発まで、あらゆる場面に活用できることも、Raspberry Piの普及につながっている。

IOT分野で活躍の場を広げる理由


トレンドマイクロは、IoTを利活用している、または検討している企業に対して、2020年4月に利用実態調査を実施している(「Raspberry Piの利用実態に関するアンケート調査」)。それによると、Raspberry Piをすでに導入している企業は41.2%、1年以内に導入予定の企業は30.8%と、実に7割以上がRaspberry Piに注目している結果になった。

IoT分野の産業界は、なぜRaspberry Piを活用するのか。その理由は、「開発コストを抑えられること」が挙げられる。Raspberry Piは1台あたり数千円程度と、従来の産業用PCと比べて破格の安さだ。これなら、新しいモノをつくろうというハードルが低くなり、開発に動き出しやすい。

しかし、それよりも「技術情報やノウハウがオープンになっている」ことのほうが、コスト削減の要因として大きい。新しいモノをつくる際には、調査や試行錯誤に多くの時間を費やすのが通例だ。オープンソースのRaspberry Piなら、個人のブログから事業者の研究発表まで開発ノウハウやナレッジが多く公開されており、その情報を活用しながら効率的に開発が進められる。また、標準OSのRaspberry Pi OSはLinuxがベースであることから、Linux上で開発経験のあるエンジニアであればプログラミング言語を新たに覚える必要もない。つまり、時間やリソースの削減効果が大きく、トータルの開発費用を抑えるのがRaspberry Piを使う最大のメリットである。

加えて、Raspberry Piの周辺機器やパーツ類を提供しているメーカーもすでに多く存在しており、これらの入手もしやすい。こうしたエコシステムが確立されている点も、開発現場で魅力になっている。

こうしたメリットがある一方で、Raspberry Piによる開発は「自己責任」であることも覚えておきたい。たとえば、一寸の遅れも許されない厳密な制御が必要な機器や、安全性と公的認証が求められる医療機器などをRaspberry Piで開発する場合、その性能保証を担保するのに時間と費用がかさむ可能性もある。Raspberry Piには向き・不向きがあるため、開発する際には慎重に判断したい。

育用に開発されたコンピュータ


IoT分野で幅広く活用されるRaspberry Piだが、もともとは教育用に開発されたコンピュータであったことをご存じの方も多いだろう。

開発者の一人でケンブリッジ大学の教授だったEben Upton(エベン・アプトン)氏は、学生たちのプログラミングスキルの低下を感じたことが開発のきっかけになったと語っている。PCやスマホなどの完成品に触れることが当たり前となった一方で、プログラミングに触れる環境が消えてしまったのではないか。そう考えたUpton氏は、将来の優秀なプログラマーを育てるうえで、子どもたちが楽しめ、学校に持っていけるコンパクトで丈夫なコンピュータがないかと開発したのがRaspberry Piだった。1台が25米ドル程度と安価に設定したのも、教育目的でつくられたからだ。

日本でも2020年度から小学校でプログラミング教育が導入されたが、その教育現場でもRaspberry Piは活用されている。たとえば、小さな子ども向けに簡単な遠隔操作ロボットなどをつくれる自由工作キットが発売されていたり、大学の情報系学部向けに組み込みプログラミングを学ぶ教材に使われたりと、基本的なコンピュータ学習をおこなえる“優れたオモチャ”として注目を集めているようだ。

現在、出荷されているRaspberry Piのほとんどが産業用途であり、開発者のUpton氏もこうした状況に驚いているそうだが、今後も教育向けの商品をつくり続けていくことに意欲的だ。あるメディアのインタビューで、Upton氏は「教育向けこそ性能の高さが求められる。なぜなら、性能に対する要求が最も厳しい顧客は子どもたちだからだ」と語っている。

性能への要求は企業のほうが厳しいと思われがちだが、企業は性能よりもコストを重視する。実際、新モデルより安価な旧モデルのほうが企業には人気があるそうだ。Raspberry Piの新モデル開発は、「こんなモノをつくりたい」という子どもたちの発想も大きな原動力になっていたのだ。

子どものころに学んだことが新しいモノづくりの開発現場で、いずれ役に立つ。それこそが、Raspberry Piを開発した真の目的だ。モノづくりの未来を担う子どもたちとともに、Raspberry Piも進化していくことを期待したい。

 

▲画像リンク元 空:カメラ兄さんさんによる写真ACからの写真/COSTDOWN : yumeyumeさんによる写真ACからの写真/少年:たくあんとくもりさんによる写真ACからの写真

 

大五康彦(だいご やすひこ)
こんにちは、会報誌『ADJUSTER』では「技術検証」シリーズや会員様取材などを担当していました。テレビ番組の制作会社でリサーチおよび構成、Webライティングを経てフリーランスのライターとして独立。IT系や不動産、金融系の取材執筆でWeb媒体を中心に活動しています。そのほか企業・団体のWebサイトにおける企画立案や構成などWebディレクター兼ライターとして500社以上のホームページ制作にも携わっています。よろしくお願いします。

 

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