東京メトロも参入!
鉄道事業者がプログラミング教室を
拡大する理由

画像提供:東京地下鉄株式会社

2020年度から始まる小学校のプログラミング教育必修化に向け、民間企業の「プログラミング教室」が注目を集めている。スクールの運営母体は、パソコンスクールなどの教育関連事業者もあれば、異業種から参入する企業もあり、そのなかには鉄道事業者の姿も。

一見、プログラミングとは関係がないと思える鉄道事業者が、なぜプログラミング教室を始めるのか。ロボットプログラミング教室「プログラボ」を運営する、東京メトロ(東京地下鉄株式会社)に話を伺った。

 

 ロボットプログラミング教室「プログラボ」とは


プログラボは、関西やを中心に展開するロボットを活用したプログラミング教室だ。関西では「読売テレビ放送株式会社」と阪急阪神ホールディングスグループの「株式会社ミマモルメ」が、また関東ではJR東日本グループの「株式会社JR中央ラインモール」と「東京メトロ」が共同で運営している。2019年10月現在で32校を開校しており、このうち東京メトロは関東の9校を担当する。

「プログラボに通う小中学校のお子さんは、関東だけでも1,100人以上もいます」と説明をしてくれたのは、企業価値創造部の北山由奈氏だ。北山氏はもともと建設関連の部署に所属し、エレベータの設置工事や駅改良工事などの施工管理を担ってきた工学系女子である。そんな経歴を持つ彼女が、なぜプログラミング教室の運営に携わるようになったのか。

東京地下鉄株式会社 企業価値創造部 北山由奈氏

 

「プログラボを知ったきっかけは、阪神電鉄の方からの紹介でした。実際に、阪急阪神グループのミマモルメさんが開校した関西の教室へ訪問した際、自分の考えや思いを積極的に発言する子どもたちの姿を見て、『将来必要とされるのはこういう人間だ』『東京メトロにも、こういう人材が入ってほしい』と強く感じたことが、プログラミング教室に携わる決め手になりました」と北山氏は語る。

 

 なぜ鉄道事業者がプログラミング教室を拡大するのか


それにしても、鉄道事業者である東京メトロが、なぜプログラミング教室を開校したのか。その疑問に北山氏は、「これからの鉄道事業者は、沿線住民の方々に対する『生活サービスの提供』も重視しなければいけない」と、東京メトロの事情を示してくれた。

東京メトロが生活サービスを重視する背景には、人口減少に対する危機感もある。東京都は今も人口が増え続けているものの、2025年ごろをピークに減少に転じると予測されている。鉄道事業者にとって人口減少は、利用者の減少に直結するリスクだ。今までのように、電車を走らせるだけで利益を増やし続けるのは難しい。

東京メトロでは、不動産事業や流通事業など鉄道以外の事業も展開しているが、沿線人口の減少を食い止めるには、魅的な生活サービスの提供も必要になってくるだろう。こうした考えに同調する社員も多いと、北山氏は語る。

「鉄道の現場で働く社員にも、『こんな事業をもっとすればよいのに』と強い想いを持つ社員がたくさんいます。プログラボも、そうした声から動き始めたプロジェクトのひとつ。このような新規事業に行きたいと手を挙げてくれる社員が増えているのは、会社としてもうれしく感じます」

プログラボを運営する阪急阪神ホールディングスやJR東日本も、生活サービスをはじめ多角経営を推進している。それは、10年20年先も「選ばれる沿線」を見据えているからに他ならない。教室に通う子のなかから、ビル・ゲイツのような偉人が輩出される日が来れば、それも沿線の魅力アップにつながるのかもしれない。

▲プログラボ葛西校に通う生徒と教室長。各校の教室長も、東京メトロの社員だ。

 

▲プロペラやタイヤなど自在に組み合わせて幾通りものロボットが製作できる。

簡単な操作で
子どもたちは夢中に!


プログラボでは、教育版レゴ®マインドストーム®EV3というロボットを活用している。

「レゴですから、組み立て方次第で何通りものロボットができます。それを子どもたちが作るなかで、『こんな構造になっているんだ』とか、『歯車のかみ合わせの違いで、動きがこんなに変わるんだ』など、モノづくりのしくみが学べます」

ロボットの動作は、専用のアプリケーションをインストールした端末やパソコンでプログラミングをして動かす。また、距離の測定や色の識別ができるセンサーも搭載されており、これもプログラミングで動作を指定できる。直感的な操作性だから、初めはプログラミングに関する深い知識がなくとも楽しんで取り組むことができる。

「プログラミングといっても、お子さんでも簡単に操作できるよう設計されており、英語のコードを書くのではなくビジュアルプログラミングブロックになっています。そのブロックをタブレットやパソコン上で組み合わせ、パラメータを変えて距離や色などを指定してロボットを動かすというしくみです。例えば、モーターの動作を指定するブロックを使ってパラメータを変えることで『左に曲がる』『物をつかむ・投げる』といった動作ができます」

モノづくりの楽しみ、作ったものが動くという感動を享受しながら、プログラミングへの興味と柔軟な思考力を育める教材なのだ。

▲ロボットの作製を通じて、モノづくりのしくみを学んでいく。

 

▲プログラミングの操作画面は、直感的で使いやすいインターフェースだ。

 

「子どもたちの考える力」を育てるのがコンセプト


プログラボに通う子どもたちは、レゴやゲームが好きな子も多い。90分の授業でも、あっという間に感じるという。

「習い事とは思っていない子も多いですね。90分も集中力が続くかと心配される保護者の方もいらっしゃいますが、夢中になるお子さんの姿を見て『子どもの集中力に驚いた』という声も聞かれます」

長時間でも子どもたちを飽きさせないために、プログラボでは子どもたちが主体となるカリキュラムに配慮している。講師は、ロボットの作り方やブロック(プログラム)の動作など基本的なことを最初に教えるが、その後は子どもたちの創造力に任せる授業が中心だという。

「講師は、課題をひも解くためのサポート役に徹します。大人からは答えを提示せず、子どもたち自身に過程を考えさせ目的を達成させる。それを通じて、問題解決力や最後まであきらめずやり抜く力など、社会で必要とされる力を育んでほしいと願っています」

▲組み立てたロボットを、プログラミングでどのように動かすかを考えるのは子どもたち。講師は、サポートに徹するのがプログラボの教育方針だ。

 

2020年度から始まる小学校のプログラミング教育でも、子どもたちの思考力や表現力を養うことが、文部科学省の学習指導要領で示されている。プログラボでは要領の詳細まではカリキュラムに反映していないというが、文部科学省の目的を正確に把握したうえで授業を展開しているように感じられた。

プログラミング教室は、これからもますます増え続けるだろう。過当競争が予測されるなかで、それぞれの教室が生き残るには、子どもたちが中心となって取り組めるような工夫や理念もポイントの一つかもしれない。

さて、来年度からプログラミング教育必修化を目前に控えた小学校の教育現場では、どのような授業を予定しているのか。次回は、教育現場の実情を中心に紹介しよう。

 

≫(次号)プログラミング教育に悩む教育現場の実情

 

▼教室DATA

プログラボ

https://www.proglab.education/

 

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